「もし今、大きな地震が起きたら……。」 お腹に新しい命を宿している今、そんな不安が頭をよぎることはありませんか?
ネットで「防災グッズ」と検索すると、膨大な数の持ち出しリストが出てきます。しかし、体調が不安定な妊娠中に、あれもこれもと完璧に揃えるのはとても大変なことです。重すぎるリュックはかえって転倒のリスクを招きますし、何より準備だけで疲れ果ててしまっては本末転倒。
大切なのは、「全部揃えようとしないこと」、そして「今の自分に必要なものだけを賢く選ぶこと」です。今日から少しずつ、無理なく妊婦さんに最適な防災グッズの準備を整えるための具体的なヒントをお伝えします。

0歳男の子ママ
地震などの災害は妊娠前でも怖かったけど、子供を産んでからはさらに防災グッズが気になるようになりました…。
この記事は以下のような方におすすめです!

妊婦の防災グッズチェックリスト
妊婦が防災グッズを準備する際、何から手をつければ良いか迷う方は多いはずです。妊娠中は急な体調変化や身体的制限があるため、一般向けの備えに加えて「自分専用」のカスタマイズが欠かせません。そこで、無理なく準備を進めるためのチェックリストをまとめました。
命を守る基本の品から、妊娠中だからこそ必要になる衛生用品、そして時期や体調によって優先すべきものまで、3つに分けて詳しく解説します。
必ず入れておきたい基本アイテム
まずは、どんな妊娠時期であっても、またどのような避難形態であっても絶対に外せない基本アイテムを整理しましょう。これらは、生命の維持と最低限の尊厳を守るために必要なものです。
| 必要なアイテム | 理由・備考 |
| 飲料水と非常食 | 500mlのペットボトル数本と、ゼリー飲料やカロリーメイトなどのすぐに食べられるもの。 |
| 携帯用トイレ | 避難所のトイレが使えない時のために最低5回分。 |
| 衛生用品 | マスク、除菌ウェットティッシュ、携帯用消毒液。 |
| 照明器具 | 両手が空くヘッドライト。 |
| 貴重品 | 現金(公衆電話用の小銭含む)、身分証明書のコピー。 |
| 防寒・防水 | アルミブランケット、レインコート。 |
これらのアイテムは、妊婦に限らず全ての人が持つべきものですが、妊婦さんの場合は特に「使い慣れているもの」や「肌に優しいもの」を選ぶことが大切です。例えば、マスクは息苦しくない立体型を選び、非常食はつわり中でも口にできそうな味のものを選んでおくといった、自分なりのカスタマイズを加えましょう。
妊娠中だからこそ必要なもの
基本アイテムに加えて、妊娠中という特別な状況をサポートするためのグッズを追加します。これが「妊婦用防災バッグ」の核となる部分です。
| 必要なアイテム | 理由・備考 |
| 母子健康手帳(及びそのコピー) | 健診結果や血液型、抗体の有無を確認するため。 |
| 処方薬・サプリメント | 張り止め薬、葉酸、鉄剤など数日分。 |
| 夜用ナプキン・産褥パッド | 突然の破水や出血、不正出血への対応。 |
| 清拭シート・水のいらないシャンプー | 入浴できない環境での感染症予防と不快感軽減。 |
| 腹帯・骨盤ベルト | 腰痛対策とお腹の保護、安定感の維持。 |
| 着圧ソックス | エコノミークラス症候群の予防。 |
これらのアイテムは、避難所ではすぐに入手できない可能性が非常に高いものです。特に母子健康手帳は、外出先で被災した場合でも常に持ち歩いていることが理想ですが、防災バッグの中にも最新のページのコピーを入れておくと、手帳本体を紛失した際のバックアップになります。
また、張り止めなどの処方薬を飲んでいる方は、医師に相談して予備を多めにもらっておくようにしましょう。
体調次第で優先度が変わるもの
全てのグッズをバッグに詰め込む必要はありません。自分の今の体調や、妊娠週数、住んでいる地域の特性に合わせて、取捨選択を行うことが重要です。
例えば、つわりがひどい時期であれば、特定の匂いを遮断するためのアロマ付きマスクや、口の中をさっぱりさせるタブレット、エチケット袋の優先度が高くなります。逆に、安定期に入って体調が落ち着いているのであれば、それらを減らして、避難所での冷えを防ぐためのレッグウォーマーや、クッション性のある折りたたみ座布団を優先する方が現実的かもしれません。
また、アレルギーがある方や、妊娠糖尿病などで食事制限がある方は、自分専用の非常食の割合を増やす必要があります。避難所での食事は炭水化物に偏りがちであるため、自分専用のたんぱく質源(大豆バーや魚の缶詰など)を持つことは、体調管理において大きな意味を持ちます。「全部必要」という言葉に惑わされず、今の自分の体が何を求めているかを基準に、優先順位をつけてパッキングを完成させてください。
妊娠時期別|防災グッズの考え方
妊娠中といっても、初期、中期、後期では身体の状態や必要なケアが大きく異なります。そのため、妊婦が用意すべき防災グッズの内容も時期に合わせてアップデートしていくことが重要。つわりが辛い時期、身体が重くなる時期、そして出産間近の時期では直面するリスクがそれぞれ違うからです。
ここからは、各ステージにおいて特に意識すべきポイントと、妊娠中の体調変化に寄り添った備えの考え方を詳しく紹介します。
妊娠初期(つわり・体調不安定)
妊娠初期は、外見からは妊婦であることが分かりにくい一方で、つわりや強い眠気、倦怠感など、体調の変化が最も激しい時期です。妊娠初期の防災対策で最も重視すべきは「不快感の軽減」と「周囲への周知」です。
つわりがある場合、特定の匂いや味に対して非常に敏感になります。避難所の独特な臭気や、配給される食事の匂いで気分が悪くなることを想定し、ミント系のタブレットや、自分が食べられる特定の食べ物(クラッカーや干し梅など)を多めに備えておきましょう。
また、外見で判断されにくいため、マタニティマークを必ず防災バッグや普段の鞄に付けておくことが重要です。意識を失った際や言葉が出ない時でも、周囲に妊娠中であることを知らせる唯一の手がかりとなります。さらに、初期は流産のリスクもゼロではないため、出血があった際にすぐに対応できる夜用ナプキンの準備は、この時期から既に必須となります。
精神的にも不安定になりやすい時期ですので、リラックスできるようなアイテム、例えば好きな香りのハンドクリームや、お守り、家族の写真なども、心理的な防災グッズとして機能します。初期の防災は、物理的な備え以上に「いかに自分の精神状態をフラットに保つか」に焦点を当てて準備を進めましょう。
妊娠中期(比較的安定期)
妊娠中期、いわゆる安定期に入ると、つわりが落ち着き、活動的になれる方が増えます。しかし、この時期は急速にお腹が大きくなり始めるため、腰痛や足の付け根の痛み、むくみといったマイナートラブルが発生しやすくなります。妊娠中期の防災グッズには、身体の負担をサポートするアイテムを重点的に追加しましょう。
具体的には、お腹を支える腹帯や、骨盤を安定させるベルトが必須です。避難所では椅子がないことも多く、床に直接座る動作が腰に大きな負担をかけます。折りたたみ式の小さな椅子や、厚手のレジャーシート、あるいはエアクッションなどがあると、腰への衝撃を和らげることができます。
また、妊娠中期は食欲が戻る時期でもあるため、妊娠中に必要な栄養素を補えるおやつや、鉄分入りの飲料などを備蓄に加えるのも良いでしょう。
安定期は「もしもの時のための準備」を最も進めやすい時期です。バッグの中身を点検するだけでなく、実際にそのバッグを背負って近所の避難所まで歩いてみる、あるいはハザードマップを確認して避難経路を複数把握しておくといった、動的な防災対策を行っておくのがベストな過ごし方です。
妊娠後期(移動制限・破水リスク)
妊娠後期、特に出産が近づく時期の防災対策は、最も緊張感が高まります。この時期の最大のリスクは、災害の衝撃やストレスによる「予定外の陣痛・破水」です。防災バッグの中身も、避難生活のためのものから、移動先での出産や緊急事態への対応にシフトさせる必要があります。
通常の防災グッズに加えて、大きめの清潔なバスタオル、産褥ショーツ、多めの産褥パッド、そして赤ちゃんを包むためのくるみ(おくるみ)を準備しておきましょう。これらは、万が一避難所で出産することになったり、病院へ向かう途中で産気づいたりした際の応急処置として役立ちます。
赤ちゃん用の防災セットも販売されているので、出産準備品として購入しておくのもおすすめです。防災グッズとしてだけでなく、普段の外出時に持ち運ぶ用としても活用できます。
\出産準備品にも最適/
また、お腹が最大級に大きくなっているため、自分一人で荷物を持って移動することは現実的ではありません。この時期は「何を自分で持つか」よりも「誰に何を運んでもらうか」という協力体制の構築が最優先課題です。
移動能力が著しく低下しているため、早めの避難判断が必要です。警戒レベルが上がった段階で、たとえ周囲が避難していなくても、自分と赤ちゃんの安全のために早めに行動を開始する勇気を持ってください。この時期の防災対策は、グッズの準備というよりも、緊急時の連絡網と避難フローの最終確認という側面が強くなります。
妊婦向け防災グッズは「一般用」と何が違う?
妊婦向けの防災グッズを準備する際、市販の一般用セットをそのまま用意すれば安心、というわけではありません。妊娠中は、身体的な変化や特別な健康管理が必要になるため、一般向けの備えではカバーしきれないニーズが数多く存在するからです。
何を追加し、逆に重さを減らすために何を削るべきか、その「差分」を正しく理解することが大切。ここでは、妊娠中だからこそ見直したい必需品と、身体に負担をかけないパッキングのコツを具体的に解説します。
一般的なセットでは不足しがちな妊婦特有の備品
市販されている多くの防災セットは、健康な成人男女が数日間生き延びることを想定してパッケージングされています。しかし、妊婦さんの場合、それでは決定的に足りないものがいくつかあります。その代表例が「生理用品やマタニティ専用の衛生用品」です。
妊娠中に生理用品が必要なのかと疑問に思う方もいるかもしれませんが、災害時のストレスによる不正出血や、突然の破水、産後の悪露(おろ)への対応として、夜用ナプキンや産褥パッドは必須アイテムとなります。
また、肌が敏感になりやすい時期であるため、一般的なウェットティッシュではなく、アルコールフリーのものや、デリケートゾーンにも使える清拭剤があると重宝します。
さらに、口腔ケアも重要です。妊娠中は歯周病が悪化しやすく、それが早産のリスクを高めるという研究結果もあります。水が自由に使えない環境でも使える歯磨きシートや、液体歯磨きは、一般向けのセットには入っていないことが多いものの、妊婦さんにとっては欠かせないアイテムです。
腹帯や骨盤ベルト、マタニティ用の着圧ソックスなども忘れてはいけません。避難所での長時間の座り仕事や硬い床での生活は、腰痛を悪化させ、足のむくみを深刻にします。これらは普段使いしているものも多いですが、非常持ち出し袋の中に予備を入れておくか、すぐに持ち出せる場所にまとめておく工夫が必要です。
優先順位を下げるべき物もある
防災対策を完璧にしようとすると、荷物はどんどん重くなってしまいます。特にお腹の大きい妊婦さんにとって、重すぎる避難バッグは転倒のリスクを高める凶器になりかねません。そのため、一般的に必要と言われているものでも、妊娠中の自分にとっては優先順位を下げるべきもの、あるいは「不要」と割り切るべきものを見極める必要があります。
例えば、大量のレトルト食品や重い保存水です。もちろん備蓄としては必要ですが、避難時に背負って歩くバッグに入れるのは、自分の体重と相談しなければなりません。水は500mlペットボトル2本程度にとどめ、あとは浄水器を持つか、給水車を頼るという選択肢もあります。また、大型の懐中電灯よりも、両手が空くヘッドライトの方が妊婦さんには安全です。
さらに、重い防寒具を何枚も入れるよりも、軽くて保温性の高いアルミブランケットを活用する方が、重量を抑えつつ体温を保護できます。
一般向けセットに入っていることの多い「万能ナイフ」や「重厚なロープ」などは、都市部での避難を想定する場合、妊婦さんが使う場面は極めて限定的です。こうした「念のため」のアイテムを削り、その分を自分の体調管理に必要なものに充てることが、賢い妊婦の防災戦略といえます。
身体的な制限を考慮したパッキングの重要性
妊婦さんの防災において、中身と同じくらい重要なのが「どう詰めるか」「どう運ぶか」というパッキングの視点です。
まず、重さは最大でも5kg程度を目安にしてください。これは、妊娠中の女性が無理なく持てる限界に近い数値です。もしパートナーがいる場合は、重いものはパートナーのバッグに入れ、自分は最低限の貴重品とマタニティ用品だけを持つという役割分担をあらかじめ決めておきましょう。
バッグの形状は、両手が自由に使えるリュックサック一択です。肩ベルトが太く、チェストベルトやウエストベルトがついているタイプを選ぶと、重さが分散されてお腹への負担が軽減されます。
荷物を詰める際は、重いものを上の方に入れると重心が安定し、歩きやすくなります。逆に、頻繁に使うウェットティッシュや母子手帳などは、外側のポケットや上部の出し入れしやすい場所に配置します。
また、荷物を小分けにするポーチは、色分けしたり透明なものを使ったりして、中身が一目でわかるようにしておきましょう。災害時はパニックになりやすく、暗い場所で物を探すこともあります。
特に「薬」「衛生用品」「着替え」といった具合にカテゴリー分けしておけば、自分以外の人がバッグを開けたときでも必要なものをすぐに見つけ出せます。この細やかな配慮が、いざという時の自分の助けになります。
避難所生活で妊婦が困りやすいこと
防災グッズの準備と同じくらい大切なのが、被災後の「避難所での生活」を具体的にイメージしておくことです。多くの避難所は健康な一般成人を基準に設営・運営されるため、妊娠中の身体には想像以上に過酷な環境となりがちです。
プライバシーの確保が難しい中での着替えやトイレ、栄養バランスが偏りやすい食事、そして周囲への遠慮など、妊婦特有の悩みは多岐にわたります。こうした直面しうる困難を事前に把握し、対策を練っておくことが、非常時に母子の健康を守る大きな力に繋がります。
トイレ・着替え・プライバシー
避難所は不特定多数の人が集まる雑魚寝の状態が多く、プライバシーを確保することが非常に困難です。妊婦さんにとって、特に大きな負担となるのが「着替え」と「トイレ」です。お腹が大きくなると、着替える際にもバランスを崩しやすかったり、座り込んでの動作が必要になったりしますが、周囲の視線がある中では落ち着いて行うことができません。
災害時のトイレ・着替え問題を解決するためには、ポンチョ型のレインコートや、着替え用の目隠しになる大型のストールを防災バッグに入れておくのが有効です。これらは、授乳ケープとしても代用できるため、産後を見据えても非常に便利なアイテムです。
また、トイレの問題については、前述の通り回数が増えるため、トイレに近い場所を確保してもらえるよう、運営スタッフに早めに「妊娠中であること」を伝えることが大切です。
プライバシーの欠如は、精神的な疲労を蓄積させます。耳栓やアイマスクを用意して、周囲の音や光を遮断できる環境を自分で作ることも検討してください。少しでも自分の世界に入れる時間を作ることは、ストレスによるお腹の張りを防ぐためにも必要な対策です。
食事・水分・冷え対策
避難所で配られる食事は、一般的に炭水化物がメインとなります。しかし、妊娠中は妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病のリスクを考慮し、塩分や糖分の過剰摂取に気を配らなければなりません。また、生ものの摂取を控えている方も多いでしょうが、災害時の配食ではそのような個別の事情まで配慮されることは稀です。
そのため、自分でコントロールできる「調整用」の食品を持つことが重要です。例えば、塩分控えめの野菜スープ(フリーズドライ)や、無塩のナッツ、タンパク質が補給できるプロテインバーなどです。これらを通常の食事にプラスすることで、栄養バランスを整えることができます。
水分補給についても、冷たい水は内臓を冷やし、お腹の張りの原因になるため、保温性の高い水筒に温かいお湯を入れて持ち歩くなどの工夫が求められます。
冷えは妊婦にとって最大の敵の一つです。特に冬場の避難所の床は、想像以上に冷気が伝わってきます。厚手の靴下、レッグウォーマー、カイロ(低温火傷に注意)、そして腰を温めるための腹巻など、複数の防寒アイテムを組み合わせて、常に「自分を温める」ことを意識してください。
周囲に遠慮してしまう問題
避難所という過酷な環境では、「みんな大変なのだから」という同調圧力が働きがちです。これにより、妊婦さんが体調の悪さを隠したり、必要な配慮を申し出るのをやめてしまったりすることがあります。しかし、これは非常に危険な状態です。
妊娠中の身体の変化は外見からは分かりにくい合併症を伴うことがあり、一見元気そうに見えても、内側では緊急事態が進行している可能性があります。
この「遠慮」を打破するためには、避難所に到着したらまず、本部や医療スタッフ、あるいは保健師さんに自分の存在を認識してもらうことが不可欠です。自分が現在何週目なのか、合併症はあるか、どのような薬を飲んでいるかを記載したメモを作成しておき、それを渡すのが最もスムーズです。
周囲の人に対しても、「お腹に赤ちゃんがいるので、少し座らせていただけますか」といった具体的なお願いを、勇気を持って口に出しましょう。多くの人は、状況が分かれば協力してくれます。
自分が声を出すことは、自分を守るだけでなく、同じように我慢している他の社会的弱者(高齢者や子供、他の妊婦さん)が声を出しやすい雰囲気を作ることにも繋がります。
妊婦が防災グッズを準備すべき理由
災害という非日常的な状況下では、妊婦の身体と心には想像以上の負荷がかかります。妊娠中は普段通りに動けないだけでなく、避難所という慣れない環境で周囲に気を使って我慢しすぎてしまうリスクも孕んでいます。
また、停電や断水によって医療アクセスや衛生環境が悪化することは、母子にとって深刻な問題です。自分と赤ちゃんを確実に守るために、なぜ今、専用の防災グッズを準備すべきなのか、その切実な理由を紐解いていきましょう。
妊婦は災害時に「我慢しやすい」
妊娠中の女性が防災対策を考える際、まず理解しておくべきなのは自分自身の心理的な変化です。災害という非常事態において、多くの妊婦さんは「自分よりももっと大変な人がいるのではないか」「お腹に赤ちゃんがいるからといって特別扱いを求めてはいけない」という心理に陥りやすい傾向があります。この「我慢」が、結果として母体や胎児に大きなストレスを与え、取り返しのつかない事態を招くリスクがあるのです。
避難所という慣れない環境では、周囲の視線を気にして、体調が悪くても言い出せなかったり、トイレに行く回数を減らすために水分摂取を控えたりする方が少なくありません。しかし、妊娠中は血栓ができやすい状態にあり、水分不足はエコノミークラス症候群のリスクを飛躍的に高めます。また、精神的なストレスは切迫流産や切迫早産を引き起こす要因にもなり得ます。
防災グッズを準備することは、単に物を揃えることだけが目的ではありません。それは「自分と赤ちゃんを守る権利を確認すること」でもあります。
あらかじめ必要なものを手元に用意しておくことで、周囲に過度な助けを求めなくても自立して過ごせる時間が増え、結果として心理的なハードルを下げることができます。自分が我慢しなくて済む環境を自ら作るために、妊娠中の今だからこそできる備えが必要です。
身体的な変化と医療へのアクセスの難しさ
妊娠中は、お腹が大きくなることによる物理的な動きにくさだけでなく、ホルモンバランスの変化によって免疫力が低下したり、疲れやすくなったりといった身体的な変化が激しい時期です。災害が発生すると、当然ながら普段通っている産婦人科が通常通り診療を行っているとは限りません。交通網が遮断されれば、かかりつけ医にたどり着くことすら困難になります。
このような状況下で、妊婦さんが最も困るのは「自分の体の状態が正常なのか異常なのか」を判断する材料を失うことです。普段なら少しの腹痛でも病院に電話できますが、災害時は電話も繋がらず、救急車もすぐには来ません。そのため、防災対策の中には「自己判断を助ける情報」や「応急処置ができる備え」が含まれている必要があります。
また、避難所までの移動そのものが大きな負担となります。瓦礫が散乱した道や、浸水した道路を歩くことは、バランスを崩しやすい妊婦さんにとって非常に危険です。
無理に避難所を目指すべきか、あるいは在宅避難を維持すべきかという判断を迫られる場面も出てきます。こうした身体的な制約をあらかじめ想定し、どの程度の荷物なら自分で持てるのか、誰の助けが必要なのかをシミュレーションしておくことが、妊娠中の防災において極めて重要です。
トイレ・食事・衛生面での不安を言語化する
災害時に妊婦さんが直面する具体的な問題として、トイレの環境、食事の質、そして衛生管理が挙げられます。妊娠中は頻尿になりやすく、トイレの回数が増えるのは生理的な現象です。
しかし、避難所のトイレが汚かったり、長蛇の列ができていたりすると、どうしてもトイレに行くのを躊躇してしまうでしょう。これが膀胱炎の原因になったり、腹痛を誘発したりすることがあります。
食事に関しても、避難所で配布されるおにぎりやパンだけでは、妊娠中に必要な栄養素、特に鉄分や葉酸、食物繊維が圧倒的に不足します。便秘になりやすい妊娠中において、食物繊維の不足は体調悪化に直結します。また、衛生面では、感染症への抵抗力が弱まっているため、手洗いやうがいが十分にできない環境は非常に危険です。
これらの不安は、なんとなく「怖いな」と思っているだけでは解消されません。具体的に「何回トイレに行くだろうか」「どんな栄養が足りなくなるだろうか」と言語化し、それに対する解決策を防災グッズとして詰め込む必要があります。
例えば、使い捨ての携帯トイレを多めに用意する、サプリメントや栄養補助食品を準備する、除菌シートを多めに持つといった具体的な行動に落とし込んでいきましょう。
母子健康手帳・医療情報の防災対策
災害時、妊婦が最も守るべき「命のパスポート」が母子健康手帳です。もし避難先で急な体調不良に見舞われたり、かかりつけ以外の病院へ搬送されたりしても、これまでの経過がわかる情報があれば、医師は迅速かつ正確な処置を行うことができます。
しかし、災害時には紛失や水濡れ、あるいは持ち出し忘れといったトラブルが想定されます。大切な医療情報を守り抜き、いつでも提示できるようにするための、具体的で現実的な管理方法とかかりつけ医情報のまとめ方について詳しく見ていきましょう。
紙で持つ?データで持つ?
母子健康手帳は、妊娠中の経過やこれまでの検査結果、予防接種の記録などが集約された、妊婦さんにとって最も重要な「パスポート」です。災害時に医療機関にかかる際、これがあるかないかで、受けられる処置の速さと正確さが大きく変わります。最近では電子母子手帳アプリも普及していますが、防災の観点からは「紙」と「データ」の両方を持つ「ハイブリッド管理」を強くおすすめします。
紙のメリットは、電源がなくてもいつでも確認できること、そして医療スタッフにそのまま手渡して読んでもらえることです。一方、デメリットは水濡れや紛失に弱いことです。これに対し、データのメリットはスマートフォンさえあれば複数の場所(クラウドなど)に保存しておけることですが、停電や通信障害、スマートフォンの故障時には閲覧できなくなります。
具体的な対策としては、母子健康手帳の重要なページ(住所氏名、分娩予定日、健診の経過記録、検査結果、感染症の既往歴など)をスマートフォンで写真に撮り、オフラインでも閲覧できる設定にしておく、あるいはクラウドサービスにアップロードしておくことが挙げられます。同時に、紙のコピーを防災バッグの防水ケースに入れておくことで、二重の備えとなります。
母子手帳は防災リュックのどこに入れておく?
「母子健康手帳は常に持ち歩きましょう」と言われますが、近所への買い物や散歩など、つい忘れてしまう場面もあるでしょう。しかし、被災はいつどこで起こるか分かりません。そのため、母子健康手帳の保管場所には複数のルールを設けるのが現実的です。
- 普段のバッグ: 常に手帳本体を入れておく。外出時はこれさえあれば安心。
- 防災用リュック: 手帳の全ページのコピーを入れておく。家から避難する際に持ち出す。
- スマートフォンのカメラロール: 写真データ。外出先で手帳を忘れた際のバックアップ。
また、意外と見落としがちなのが「診察券」と「健康保険証」。これらも母子健康手帳と一緒にケースにまとめておくのが一般的ですが、災害時にそのケースごと紛失すると大変です。保険証のコピーや、診察券番号のメモも防災バッグに入れることを検討しておきましょう。
かかりつけ医情報のまとめ方
災害時、普段通っている病院が被災したり、遠くの避難所に移動したりした場合、かかりつけ医と連絡を取るのが難しくなります。しかし、搬送先の別の病院の医師が最も知りたいのは、「普段のあなたの経過」です。そのため、かかりつけ医の情報は非常に詳細にメモしておく必要があります。
| 項目 | 具体的な内容 |
| 病院名・電話番号 | 代表番号だけでなく、緊急連絡先があればそれも。 |
| 主治医の名前 | 担当の先生の名前。 |
| 現在の診断名 | 切迫早産、妊娠高血圧症、妊娠糖尿病など。 |
| 内服中の薬 | 正確な薬剤名、用量、回数(お薬手帳のコピーがベスト)。 |
| アレルギー | 薬や食べ物に対するアレルギーの有無。 |
| 特殊な経過 | 過去の流産経験、不妊治療の有無、帝王切開の予定など。 |
これらの情報を一つの「緊急情報カード」としてまとめ、母子健康手帳に挟んでおくか、財布の中に入れておきましょう。
もし意識を失った場合でも、第三者がそれを見れば、あなたが妊婦であり、どのような配慮が必要かを瞬時に理解できます。医療情報は「自分だけが知っている」状態から「誰が見てもわかる」状態にしておくことが、真の防災対策です。
全部揃えなくていい|優先順位の付け方
妊婦が防災グッズを完璧に揃えようとすると、その膨大なリストを前に「何から始めればいいのか」と立ち止まってしまうことがあります。しかし、全てのグッズを一度に揃える必要はありません。大切なのは、今の自分にとって何が最も重要かを見極め、優先順位をつけること。
無理をして重い荷物を作ったり、準備に追われてストレスを溜めたりしては本末転倒です。まずは数分でできることから着手し、少しずつ備えを厚くしていくための、賢い優先順位の付け方をご提案します。
今日5分でできる準備
「防災グッズを揃えなきゃ」と思うと、どうしても買い物に行ったりネットで注文したりと、大掛かりな準備を想像して腰が重くなりがちです。しかし、妊娠中の体調は日によって変わるもの。元気な時に一気にやろうとせず、まずは「今、この場所で5分でできること」から始めましょう。
最初の一歩として最もおすすめなのは、スマートフォンのカメラで母子健康手帳の主要なページを撮影することです。これだけで、医療情報のバックアップという最も重要なミッションの半分が完了します。
次に、家にある小銭をかき集めて、小さなポーチに入れてください。災害時は公衆電話を使う機会が増えたり、キャッシュレス決済が使えなくなったりするため、小銭は非常に役立ちます。
また、普段使っているバッグに、予備のマスクと除菌ウェットティッシュ、そしてマタニティマークが付いているか確認するだけでも十分な防災活動です。「完璧なバッグを作る」ことを目標にするのではなく、「今より少しだけ安全な状態を作る」ことを繰り返していくことが、決断疲れを防ぎ、継続的な準備に繋がります。
余裕がある人が追加するもの
最低限の備えができ、体調や予算に余裕が出てきたら、避難生活の質を向上させるためのアイテムを追加していきましょう。これらは「なくても死なないけれど、あれば格段に楽になるもの」です。
例えば、ポータブル電源や大容量のモバイルバッテリーです。情報の命綱であるスマートフォンの充電が切れることは、大きな不安に直結します。また、避難所の硬い床でも眠れるように、軽量のキャンプ用エアーマットや、お腹をサポートするための抱き枕代わりになるクッションなども、余裕があれば検討したいアイテムです。
食事面では、温かいものが食べられるように、水を入れるだけで発熱する加熱剤付きの食品を用意するのも良いでしょう。温かい食事は、身体を内側から温めるだけでなく、沈んだ気持ちを前向きにする効果があります。
さらに、ドライシャンプーや体拭きシートの質を上げたり、好きな香りのリラックスグッズを充実させたりすることで、避難所という非日常空間の中に、少しでも自分らしい「日常」を取り戻す工夫をしてみてください。
「やらなくていいこと」も明示
防災対策においては、情報を取捨選択し「やらないこと」を決めるのも、妊婦さんにとっては重要な判断です。ネット上には膨大な防災リストが溢れていますが、その全てを真に受けてしまうと、準備だけで疲れ果ててしまいます。
まず、一人で「重い荷物を背負う練習」はしなくていいです。妊娠中の身体は刻一刻と変化しており、今日持てた重さが明日持てるとは限りません。むしろ、「自分は重いものは持てない」という前提で、家族や周囲に頼る計画を立てることに時間を使ってください。また、一度に全ての防災グッズを新品で買い揃える必要もありません。家にあるもので代用できるものはたくさんあります。
「いつ起こるか分からない災害のために、今を楽しむ時間を犠牲にしすぎる」ことも、やらなくていいことの一つです。防災は大切ですが、それによって毎日が不安でいっぱいになってしまっては本末転倒です。このリストを参考に、ある程度の準備ができたら「よし、これで大丈夫」と自分を肯定して、穏やかなマタニティライフを送ることを優先してください。
妊婦向け防災グッズは市販セットでいい?
初めての備えで「何をどこまで揃えればいいのか」と悩む妊婦さんにとって、市販の防災セットは強力な味方になります。しかし、妊娠中という特別な状況においては、市販品をそのまま置いておくだけで十分とは言えません。
市販のセットを活用して効率的に備えつつ、自分の体調や妊娠週数に合わせていかにカスタマイズしていくかが、災害時の安心を左右する鍵となります。市販セットの賢い選び方と、自分にぴったりの「最強の避難バッグ」に仕上げるためのポイントを確認していきましょう。
市販の防災セットのメリット・デメリット
最近では、妊婦専用や女性専用と銘打たれた防災セットが市販されています。これらを購入すべきかどうか迷っている方も多いでしょう。市販セットの最大のメリットは、「自分で一つずつ選ぶ手間が省けること」と「プロが選んだ最低限のラインナップが揃っている安心感」。特に、何を準備していいか分からずパニックになりそうな方にとっては、最初の土台としておすすめです。
しかし、防災グッズの市販セットには「自分の体質や週数に完全にフィットしているわけではない」というデメリットも存在しています。例えば、セットに入っている非常食が自分のつわり時期に受け付けない味だったり、サプリメントが既に処方されているものと重複していたりすることも…。また、市販のリュックが自分の体格に合わず、お腹を圧迫してしまう可能性も否定できません。
さらに、市販セットは「中身が詰まった状態」で届くため、そこから自分の私物を追加しようとすると、すぐに重量オーバーになってしまうこともあります。市販セットはあくまで「ベース」であり、そのままでは完成品ではない、という認識を持つことが大切です。
防災グッズの基本を市販セットで揃えて、追加で妊婦特有のアイテムを買い足したい…という方には、こちらの防災士が厳選した防災セットあかまる防災がおすすめです!
個人の身体の状態に合わせて追加でいろいろな防災グッズを入れることができるよう、あらかじめ本当に入れておくべき防災グッズのみ厳選して用意された、防災士監修の防災グッズ44点セットです。
災害発生後、人命救助を最優先にすることから物資の支援が遅くなると言われている72時間(3日間)分の備えをまとめて揃えることができる防災用リュックとなっています。
市販セットが向いている人・向いていない人
市販の防災セットの購入が向いているのは、以下のような方です。
- 現在、仕事や体調不良で忙しく、一つずつグッズを吟味する時間がない。
- 防災の知識がゼロに等しく、まずは標準的なものを手元に置いて安心したい。
- 自分でリュックを用意したり、小分けにするのが面倒だと感じる。
一方で、以下のような方は、自分で一つずつ揃える「自作セット」の方が満足度が高く、実用的かもしれません。
- こだわりたいポイント(特定の衛生用品や、好きな味の食べ物など)がはっきりしている。
- 既にアウトドア用品や普段使いの予備として、流用できるグッズを多く持っている。
- 予算を抑えつつ、自分にとって本当に必要なものだけを厳選したい。
どちらが正解ということはありませんが、市販セットを買う場合でも、必ず一度は中身を全部出し、自分で使い勝手を確認して、足りないものを付け足すという作業は不可欠です。
市販セットで不足しがちなアイテム例
市販の妊婦向けセットであっても、意外と入っていない、あるいは量が足りないアイテムがいくつかあります。これらは、自分で追加購入してバッグに忍ばせておくべきものです。
まず、「普段飲んでいる薬」と「母子健康手帳のコピー」です。これらはセットに入れようがないため、自分で用意するしかありません。次に「小銭」です。キャッシュレスが浸透している現代のセットには意外と入っていませんが、災害時の公衆電話や古い自動販売機では10円玉や100円玉が神様のように感じられるはずです。
また、「使い捨てのショーツ」も、セットに入っている数枚では足りないことが多いです。避難生活が長引けば、洗濯できない状況が続きます。多めに用意しておくか、生理用ナプキンをこまめに替えることで下着の汚れを防ぐ工夫が必要です。
さらに、「ビニール袋(大小さまざまなサイズ)」も多めにあると、ゴミ捨てだけでなく、濡れた衣類の保管や、簡易的な手袋、さらには防寒具の代わりなど、無限の用途があります。これらの「安価でかさばらないけれど、あると劇的に便利なもの」を自らプラスすることで、市販セットは真の妊婦専用防災バッグへと進化します。


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